重いものを持ち上げたり動かしたりするとき、人はさまざまな道具を使って力を効率よく伝える工夫をしています。例えば、滑車・斜面・てこなどを利用すると、少ない力で大きな仕事をすることが可能になります。これが仕事の原理です。
「滑車を使うとどうして楽になるの?」「斜面を使った場合の仕事の計算方法は?」といった疑問を解決するために、この記事では仕事の原理の基本と計算方法をわかりやすく解説します。さらに、テスト対策に役立つ確認問題も用意しているので、しっかり学んで理解を深めましょう!
仕事の原理とは
いろいろな道具を使って仕事を行っても、道具を使わなかったときと仕事の大きさは同じで変わらないという原理です。
重たいものを直接持ち上げることが困難な場合、人類は様々な道具を使って弱い力でも物体を持ち上げる工夫を行ってきました。「滑車(かっしゃ)」や「斜面」、「てこ」などがその代表例です。
道具を使って弱い力で物体を持ち上げることができても、その分距離が増えるので、結果として仕事の大きさは変化しません。
定滑車を使った仕事
定滑車は、天井や壁、床などに固定されていて、その場で回転するだけで自らは上下に動かない滑車です。引く力の向きを変えるのに役立つ道具です。ただ、力の向きを変えるだけの道具ですので、引っ張る距離や力の大きさは、そのまま上げる場合と変わりません。
解答)定滑車は力の向きを変えるだけの道具ですので、力の大きさや距離は変化しません。
力の大きさ:100N 距離:0.5m
仕事=100N×0.5m=50J
動滑車を使った仕事
動滑車は、定滑車と異なり滑車自体が上下するものです。動滑車を使うことによって、力を天井方向と引っ張る力に分けることができるので、半分の力で物体を持ち上げることができるようになっています。しかし、動滑車から上にのびるひも2本分を引かなくてはならないので、引っ張る距離は2倍になります。
動滑車の問題を解くときは、動滑車が1つ使われている場合「力半分、距離2倍!」と覚えておきましょう。また、通常は動滑車自体の重さは無視できるようになっていますが、問題によっては動滑車の重さも考えないといけない問題もありますので注意してください。
解答)動滑車ですので「力半分、距離2倍!」です。したがって、
力の大きさ:50N 距離:1.0m
仕事=50N×1.0m=50J
斜面を使った仕事
斜面も弱い力で重たい物体を持ち上げることができる道具です。真上に物体を持ち上げるよりも斜めに物体を引き上げることによって引く力を小さくしてくれます。ただし、斜面の方が距離が長くなるので、仕事の大きさは結局変わらないことになります。
斜面の問題を解くときには、仕事の原理を利用して解くことが多くなります。そのまま道具を使わず物体を持ち上げたときも、斜面に沿って物体を引き上げたときも、仕事の大きさが変わらないことを利用して、斜面の長さを求めたり、斜面に沿ってどれくらいの力で引っ張ったかを計算することができます。
また、摩擦がはたらくと仕事の大きさは変わってしまいますので、理科の計算では斜面と物体の間の摩擦は考えないようにします。
解答)斜面の傾きが30°なので、高さと斜面の長さは1:2の関係になり、斜面の長さは1.0mであるとわかります。詳しくは中3数学の「特別な角をもつ直角三角形の辺の長さ」を学習するとわかります。斜面を使わず、そのまま真上に物体を持ち上げた場合の仕事を計算し、仕事の原理より、斜面を使って持ち上げたときも同じ仕事の大きさになることを利用します。
そのまま真上に持ち上げたときの仕事=斜面を使った場合の仕事
100N×0.5m=50J
斜面に沿って引く力の大きさ
50J÷1.0m=50N
てこを使った仕事
てこを使った仕事では、支点からの左右の腕の長さが重要です。てこでは、支点からの距離と重さ(力の大きさ)の積が等しくなったときにてこが動き出します。積が等しくなるためには、腕の長さの比と重さ(力の大きさ)の比が、逆比の関係になっていなければなりません。
また、てこが動く距離は腕の長さの比と同じになります。したがって、手でてこを押して行った仕事と、物体がてこから受ける仕事の大きさは等しくなります。
解答)腕の長さが①:②ですので、重さと手で加える力の大きさの比は②:①になります。動く距離の比は①:②となります。
力の大きさ:50N 距離:1.0m
仕事=50N×1.0m=50J
【確認問題】仕事の原理の問題
斜面や滑車、てこなどの道具を使ったときの仕事について調べるため、次の【実験1】~【実験3】を行った。これについて、あとの問いに答えよ。ただし、100gの物体にはたらく重力の大きさを1Nとする。また、おもりと斜面との摩擦、動滑車と糸との摩擦、および物体以外のものの重さは考えないものとする。
(1)【実験1】から、この実験に使った物体の質量は何kgだとわかるか。計算により求めよ。
(2)【実験2】で、物体をばねばかりで引き上げるとき、斜面に沿って何cm引き上げたとわかるか。計算により求めよ。
(3)次の文は、【実験1】と【実験2】から分かることをまとめたものである。文の内容が正しくなるように、{ }の中からそれぞれ適当なものを選び、記号で答えよ。
(4)【実験4】で、物体を50cmの高さまで上げるために、てこを手で何cm押し下げればよいか。また、このとき手がした仕事の仕事率は何Wか計算せよ。
【解答・解説】仕事の原理の解答
(1)1.6㎏
動滑車を1つ使っているので、ばねはかりで引く力の大きさは、物体の重さの半分になっています。したがって、物体の重さは、
8.0N×2=16N
1Nは100gなので、
16N=1600g=1.6㎏
となります。
(2)100cm
実験1と同じ物体を使っているので、そのまま真上に持ち上げたときの仕事は、
1.6㎏=1600g=16N
50cm=0.5m
16N÷0.5m=8.0J
真上に持ち上げたときの仕事の大きさも、斜面を使って持ち上げたときの仕事の大きさも同じになる(仕事の原理)ので、
8.0N×x[m]=8.0J
したがって、斜面を1.0m引っ張ることになります。
(3)①イ ②ア
滑車や斜面、てこなどの道具を使った場合、道具を使わずに物体を直接持ち上げる場合と比べて、物体を引き上げる力の大きさは小さくなりますが、引っ張る距離は大きくなるので、結果として仕事の大きさは変わりません。これを仕事の原理といいます。
(4)100cm、0.8W
てこのうでの長さと、物体が弧を描いて動く距離の比は一緒になります。
うでの長さの比は、
40cm:80cm=1:2
なので、動く距離の比も1:2になります。
1:2=50:x
x=100cm
また、物体がてこから受けた仕事の大きさは、
16N×0.5m=8.0J
手がした仕事も8.0Jになります。かかった時間は10秒なので、仕事率は、
8.0J÷10秒=0.8W
になります。
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